職人・伝統工芸士の跡継ぎ後継者探しで若者に見せなくてはいけないこと

日本には世界に誇れる職人、伝統工芸士がいる。その廃業が跡を絶たない。

跡継ぎ、後継者を探しても応募がない。または来てもすぐ辞めてしまう。

これらの求人問題を解決する上にあたって重要なのは、当然ながらその仕事をよく理解してもらうことです。

ただ、それだけだと壁があります。

職人や伝統工芸士など手に職を付ける業種には常に生活への不安がつきまといます。

これで食っていけるのかと。

そこは給料なり売上規模なり、市場状態などを説明することで幾分の不安は払拭されます。

しかしお金の数字で安心できるのは一般的な仕事だけです。職人や伝統工芸士などは月額25万円は最低確保できると言われても25万円分の価値が確定するとは到底考えられないからです。

やはり手に職系は不安定という負のイメージが強い。仮に月給100万円も可能!なんて書いても胡散臭くないでしょうか?正直に言っても嘘を言っても不安は拭えないのです。

この生活基盤への不安。これが職人・伝統工芸士への道を閉ざす原因となっています。

本当はこういった手に職系に憧れている若者は多いです。さらに向いている人もいっぱい隠れています。でも違う仕事をしていることがほとんどです。

こういった隠れ跡継ぎ後継者は山ほどいます。ただ出会えていない。お互いの距離が非常に遠いだけです。

ではどうすればいいか?

いい例がいるはずです。

跡継ぎ後継者を探している職人・伝統工芸士本人です。

この人が生活できているという証拠があります。

しかしそんなことは当たり前です。

「俺はこれで50年やってきたんだよ」

と言われても、時代が違うしこれからの未来も分からない。

ただ未来に関しているとサラリーマンでさえ分からない時代です。だからこそ手に職を!という人が多いのですから、将来的な不安は言えばキリがありません。

跡継ぎ後継者に見せるべき姿は、現役職人のありのままの生活です。

例えば料理に例えましょう。

レシピがあり、手順の画像もある。

「なんか難しそう」

料理研究家が実際に作ってみる様子を動画で見る。

しかしピンと来ない。

そんな人がたくさんいます。料理が苦手な人は特に。

しかし、実際に作って見せる人が普通の一般人ならどうか?

急にできそうな気にならないでしょうか?

つまり自分と等身大の範囲に収まる人がやっていることは自分にもできそうに感じやすいのです。

職人・伝統工芸士の仕事内容は「職人」なので「できそう」ではなく「やってみたい」という意欲が必要。

そしてそれを職にして生活していくということは、生活部分なので職人かどうかは関係ありません。そこはみんなと同じです。

でもイメージがつかないんです。

職人・伝統工芸士という悪く言うと閉鎖された業界では、そこで働く人というのはミステリアスで自分とは違う生き物にとらえてしまいがち。

そこでそんな職人・伝統工芸士の日常生活を見せてあげます。

するとそこに映る人物は若者から見ても等身大の範囲です。

あれだけ細かい作業をかっこよくやっていたおじいちゃんが、家では奥さんに怒られていたり料理はまったくできなかったり。

仕事のない日は趣味で一日過ごしている。

隣近所との付き合いは田舎にしてはそんなに濃くない。

買い物はちょっと遠いけど高くないし、こんな食事ならいつでもありつけそうなんだな。

などなど、この仕事で生活している人のリアルが見える中で、見た人それぞれの理解と拡大解釈が生まれます。

もしこのあたりに住むなら、こんな家なら家賃いくらくらい。

スーパーはこんな価格帯。八百屋もある。魚屋もあって新鮮な魚が安い。

そんな情報も付け加えるといいでしょう。

あれこれします!サポートします!

というおせっかいはダメとは言いませんが職人・伝統工芸士は主に一人でやっていく職業なので、サポートしますアピールは逆にうざったくて敬遠される恐れがあります。

とにもかくにも、跡継ぎ後継者候補の若者には「自分で感じてもらう」しかないしそれが一番有効なんです。

職人・伝統工芸士としての仕事内容を見せて感じてもらうことは簡単でしょう。

しかし生活できないと意味がないのです。

豊かな生活を求めて職人や伝統工芸士になろうという人はほとんどいないでしょう。でも生活はしたいわけです。当たり前ですが。

不安はある。

待遇や将来的な金銭面の可能性を数字で言われてもピンと来ないのです。

等身大の、つまり自分を当てはめられる事例を見せてあげると変わります。

職人や伝統工芸士の跡継ぎ後継者問題は仕事の内容や意義などにクローズアップして伝えますが、その魅力ある仕事を続けるために必要な生活が想像できないと飛び込むことはできません。

別に楽したり有意義な生活を見せられたいわけじゃありません。自分がそこにいても違和感がない。やっていけそうと思える情報を与えてあげるだけ。それだけで後継者候補の応募や定着率が上がる可能性があります。